一眼でも生きている石

やるべきこと:体重65kg、ゴミ出し、掃除、睡眠時間の確保。できるまで他の一切は不要

全人類共通の心の故郷をつくるよ

 陽気のかまびすしいゴールデンウイークであるが、私のまったく陽の当たらない部屋は相変わらず薄暗く、ひんやりとしている。冬の間はこれが少なからず苛立ちの元だったが、この季節になるとたいへんありがたい。

 派遣社員として、ゲーム会社で働き始めて、一ヶ月。端的に言って働くのが楽しい。こないだまでの絶望がウソみたいだ。生まれ変わった気分だと言っても良い。

 当初は、自分はどうせ労働には向かないのだから、一年くらい働きながら勉強して、大学院にまた入って貧困にあえぎながら研究者を目指す計画であった。だが、今は、ゲーム業界というフィールドの、プロミネントなプレイヤーになる気マンマンである。

 私の会社は、海外製のゲームを日本にローカライズするのが主事業である。ローカライズというのは、「翻訳」を少し拡張した概念ぐらいに考えてもらえばいいと思う。「翻訳」というのは主に言語の置き換えについて使う言葉であるが、ゲームの場合、言語以外にもいくつか置き換えねばならない要素があるのでこの語を使う。

 今度、自分が新しいタイトルのローカライズのマネージ全般を任せられる見込みだ。「働く」ことを諦めかけていた自分には、大変ありがたい――まさしく「有り難い」――機会だ。

 すごく良い会社だとは言えないが、良い会社であると思う。自分のような、ポテンシャルがありながらもなぜかあちこちでつまづいている人間のモチベーションを高める多くの仕掛けが用意されている。

 私の業務のひとつに、ゲーム業界関連ニュースで自分が注目すべきだと思ったものを社内で共有する、というのがある(現代版新聞切り抜き)。先日、中国向けにゲームをローカライズしているアメリカ会社についての記事を見つけた(なにしろ私は中国に興味がある)ので、「この会社おもしろいですよ」と共有した。すると、社長と副社長から、ただちにその会社に連絡をとり、業務提携を提案するようにという命令が下った。

 結局、私の経験不足のため、コンタクトは副社長がやってくれた。早速秘密保持契約が結ばれ、提携が始まった。

 自分のちょっとした興味の発信から、このような具体的な動きにつながっていく。自分の関心の中心である中国に関わる仕事ができるようになるかもしれない。気持ちが高ぶっていくのを感じる。

 とはいえ、大いに心配なところもある。私が働き始めてまだ一ヶ月ほどでしかないのに、4人の人が去り、3人の新しい人が入った。これから去っていく一人は、自分の面接をしてこの会社に入れてくれた人だ。その人が、社長と副社長との不和が原因で辞めることになった。

 何かと人間関係の機微に疎いので、ことの本質はよくつかめない。社長・副社長によれば、彼は明らかにある種の能力が不足しているという。

 良くも悪くも、流動的な業界なのであろう。

 新しく入って来た一人は、とても魅力的な雰囲気のある、韓国人女性だ。日本語がネイティブレベルなのはもとより、とにかく本当にアトラクティブなのだ。私もいい大人なので良からぬことは考えていないが、これもまた仕事に対する気持ちを強める。(公務員は、外国人の同僚など望むべくもない。ろくでもないね!)

 ゲーム業界のプレイヤーとしての私の目標は、「21世紀の宮﨑駿を世界のどこかから発掘する」ことである。言い換えれば、全世界で共有できる心の故郷を世界に提供する、ということだ。